カレーライスを一から作る
2016年 日本 1時間36分 <予告編>
監督:前田亜紀
出演:関野吉晴/武蔵野美術大学関野ゼミ生
この作品は、医師で冒険家としての経歴をもち、大学教員である関野吉晴氏が、学生教育実践におい
て、カレーライスの材料である肉、野菜、米を学生に育てさせた活動の経過を描いたドキュメンタリーで
ある。その目的は、命を育てることの困難と、育てた命をいただくことの戸惑いや痛みを考えさせること
にあった。
これまで同様の目的で子どもに体験させようとして実施されてきた教育実践はいくつかある。特に、映画
『ブタがいた教室』と、その素になったテレビバラエティー番組で放映されたドキュメンタリー「豚のPちゃ
んと32人の小学生 生命の授業900日」では、育てた動物に対する愛情のために、命を奪うことの判断
に迷いが生じ、指導者自身も方針がぶれてしまっていたが、そのようなぶれがないこと、そして、関野氏
自身の冒険家としての技術と決断力を以て絶命を実行しているところが実に優れている。
その他にも、この実践の凄いところは、学生自身が選んだ育てにくい複数の動物で試行させ、失敗も経
験させたり、植物の命、有機農法の意味も併せて考えさせ、器つくりまでさせており、幅広い総合性を備
え、高く評価できるものだと言える。
ぜひとも皆様にお勧めしたい作品である。 (竪壕)
エルネスト もう一人のゲバラ
2017年日本・キューバ合作映画 2時間4分 <予告編>
監督:阪本 順治
出演:ホワン・ミゲル・パレロ・アコスタ/オダギリジョー/永山 絢斗
没後50年を迎え、キューバ革命の立役者ゲバラの広島訪問というエピソードが映画として蘇っ
た。しかも、50年振りの日本とキューバ合作映画として。
この作品の主人公は、ゲバラと共にボリビアで戦い倒れたボリビア生まれの日系二世、フレ
ディ前村ウルタード(オダギリ・ジョー)である。
映画は、もう一人の主人公というべきゲバラが、日本滞在中予定を変更して広島を訪れるシー
ンから始まる。基になったのは中国新聞の林立雄記者の取材メモ、映画では森記者として永山
絢斗が演じている。平和記念公園で慰霊碑に献花したゲバラは、碑文に主語がないと疑問をは
さみ、資料館では、強い口調で「日本人はどうして怒らないのか」と問いかけ、原爆病院では
入院患者にやさしく声をかける。
一転して、フレディが医者を志しキューバに留学、キューバ危機を経て、ゲバラを追ってボリ
ビアに渡りエルネストの名前で革命に参加していく様が描かれる。
理想に向かってまっすぐに突き進んでいったふたりのエルネストは、1967年政府軍に捕まり相
次いで処刑される。ゲバラの命日は奇しくも映画を観た10月9日であった。享年39歳。フレディ
は25歳の若さだった。 (OK)
ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ
2016年 アメリカ 1時間55分 <予告編>
監督:ジョン・リー・ハンコック
出演:マイケル・キートン
マクドナルドの真の創業者が一介のセールスマンに乗っ取られ、哀れな末路を辿ったという話
は、10年前に翻訳出版された本(エリック・シュローサー、チャールズ・ウィルソン共著、宇
丹貴代実訳『おいしいハンバーガーのこわい話』草思社、2007年)から知った。その本で描い
ていた部分も、この作品とほぼ共通していた。
この作品からはさらに、乗っ取りが簡単ではなく、応援を申し出た人々との出会いがあって成
し遂げられてきたこともわかる。また、「人格化された資本」と言っても過言でないほど、主
人公の、愛情よりも金儲けを優先した貪欲な生き様が強く打ち出されている。そのような資質
とが相まって、真の創業者を上回るシステムが創設されていったということであろう。
真の創業者も、必ずしも、なされるがままに乗っ取られたわけではなく、頑固に自分の理念を
貫徹し、自己防衛するためのシステムをつくりあげていたこともよくわかる。それにもかかわ
らず、資本家としての執念の面で、主人公が上回ったということであろうと思われたので、同
情は感じなかった。
ただ、この作品は、10年前に翻訳出版された本の観点から考えると、乗っ取り屋である主人公
の苦労・成功談に終始していると言わざるを得ない。ハンバーガーというファストフードは、
流通業界、食品業界、労働環境、食生活に関して様々な罪や害をもたらしてきた。その一企業
が世界に君臨する「帝国」となることによって、それらの罪や害を世界に撒き散らしてきた。
そうした大きな弊害について全く触れていないところは、この作品の重大な欠点であると指摘
しておきたい。
「帝国」の負の側面をきちんと伝えるような情報や、制作された映画作品と併せて、この作品
と対峙すべきだと思う。ファストフード業界の害悪を指摘する作品との出会いを期待したい。
(竪壕)
三度目の殺人
2017年 日本映画 2時間4分 <予告編>
監督・脚本:是枝 裕和
出演:福山 雅治/役所 広司/広瀬 すず
サロンシネマに「三度目の殺人」を観に行きました。
何とも意味深なタイトルですが、弁護士同士、また検察官、裁判官とのやりとりは極めてリア
ルです。是枝裕和監督の原案、脚本ですが、よく丁寧にリサーチしていると感心しました。特
に、公判前整理手続、裁判中の進行協議の3者のやり取りは、実体験者ならわかるものです。
また、おそらく公判部長、上司の検察官が、市川実日子扮する公判担当検事に***と耳打ち
するシーンは、まさにその通り!!
三隅(役所広司)が、3人の弁護士に話したことがそれぞれ違うかのようなやりとりが出てき
ます。弁護士も一個の人、相手の頭の中、心の中は覗けず、本人の言い分を受け入れつつ、向
き合って話す中でしか進む道は見えてきません。
多少、ネタばらしですが、重盛弁護士(福山雅治)の父親が持ってきた1枚のハガキがなけれ
ば、三隅の最後の言い分に重盛は乗り切れなかったかもしれないですね?
ヤメ検の弁護士、駆け出しの弁護士、中堅のシビアな弁護士のやりとりも、それぞれの人柄が
よく見えます。セリフの切れもよく、がなることのないじっくりしたやりとりがいいですね。
最後の二重映りは、向かい合うようでいて、実は重なり合いを描いているのでしょう。そのた
めには、現実には窓のない接見室に、窓がある設定にしたのでしょうが、描写的には必要だっ
たと思いました。三度目の殺人者は誰?という問いは厳しいですね。
(ストーン)
夜明けの祈り
2016年 フランス・ポーランド合作 1時間55分 <予告編>
監督:アンヌ・フォンティーヌ
出演:ルー・ドゥ・ラージュ
最近頓に増えた「実話に基づく作品」の一つ。女性主人公が権力の魔の手をかいくぐって首尾を果たす
勇敢さは、『コロニア』のそれにも近い。しかし、『コロニア』の実話の主人公は少年であり、舞台が独裁
政権下チリでの元ナチス党員の支配する秘密の施設であった。
こちらは、ナチス・ドイツの侵略後に戦勝国ソ連の占領を受けたポーランドを舞台とし、被害を訴え出る
ことができない立場に追い遣られたポーランドの修道女たちに対して、「解放者」とみられていたはずの
ソ連が犯し隠蔽した闇を明るみに出した作品の一つである。
展開のなかで、小さな悪が非難される場面はあるが、大きな悪は主人公でさえ蹂躙されそうになる場面
もあり、口も手も出すことは到底できない時代であったのだろう。
どちらかが正しくてどちらかが間違っていると裁くのは監督の役割ではないとされている。結末は、生き
残った子どもたちの幸福を最優先にし、修道院の機能を生かしたものでもあり、邦題の「祈り」にも通じ
るので、肯定したい。
軍隊に関わる性犯罪については、日本自体も侵略した国における加害責任が指摘され続ける一方で、
国内に駐留するアメリカ軍人による被害を受け続けている。現代のこの問題は、「祈り」ではなく「怒り」
を以て、隠蔽を許すことなく、責任追及の手を緩めてはならないだろう。
(竪壕)