「板子一枚下は地獄」のことわざ通り現代日本の危うさを提示した作品です。
時枝修はある日大学に行くと除籍になっていました。アパートに帰ると退去を迫られ
ます。今までは仕送りされていた学費と家賃が未納だったのです。驚いて実家の父親に
電話をしますが繋がりません。帰郷してみると、家はもぬけの殻でただ一人の肉親であ
る父親は蒸発していました。
セーフティネットが脆弱な日本。修はたった一人大都会東京に投げ出されます。とこ
ろが彼は最初危機感に乏しく「何とかなるさ」と気楽に考えている風で、なけなしの金
をパチンコでスッたりして“しっかりしろよ”と思ってしまいます。
ネットカフェに寝泊まりする日々が始まり、テッシュ配りのバイトをしてもなかなか
受け取ってもらえません。先輩にコツを教えてもらうのですが、このアドバイスがリア
ルでリサーチに感心します。
修の人の良さが裏目に出てホストクラブで働き始めるのですが、客に金を落とさせる
ための演出「シャンパン・コール」なるものを初めてみて、虚構の上に作られた薄っぺ
らな繁栄というものを強く感じました。この「シャンパン・コール」は修にいれあげ身
を持ち崩してしまう看護師・北条茜と再会するシーンでも象徴的に使われています。
主人公の修は人の良さも手伝い転落していくのですが、それでも荒むことなくやたら
と土下座をしますが自死は考えません。修も茜も転落はしても前を向いて生きていこう
とします。そこが救いです。
修役の中村蒼、茜役の大塚千弘が文字通り体を張った熱演。さらにホームレスを演じ
た井上順が意外にいい味をだしています。佐々部清監督が今までにない作風で現代格差
社会の断面を見事に切り取ってみせてくれます。
R15+ <紅孔雀>
「今日さえよけりゃ、何とかなるさ」といった、あまり物事を深く考えず、適当に生
きている今どきの普通の大学生が主人公。
しかし、親からの仕送りが途絶えたことから環境が一転する。
授業料未納による大学からの除籍通達。住んでいたアパートからの強制退去。住むと
ころもお金もなく、一気に転落の一途をたどる主人公。
佐々部清監督は、現代ニッポンのある現実世界を映画で示した。
ぜひ、映画館で「東京難民」に出会ってください。
サロンシネマ 4/5~4/18
(せん寿)
これは米軍の作戦が失敗に終わった実話に基づく映画です。その中身は娯楽映画のスリルや爽快感とは
異なり、文字通り“痛い”映画です。
タリバン幹部の隠れ場所を偵察するため、アフガニスタンの山岳地帯に赴いた米国海軍の精鋭ネイ
ビー・シールズの隊員4人の物語です。戦場では常に想定外の事態が起こりうることを生々しく克明に映
し出しています。
4人の運命が暗転したきっかけは、山の中腹からタリバン幹部の動向を偵察中に羊飼いに遭遇してしまっ
たことでした。拘束しながらも、生かすか殺すか迷った末に解放しますが、それはタリバンに自分たちの
存在を知られる可能性があることを意味していました。
そして予想通り200人ものタリバン兵との激闘になだれ込んでいくのですが、追いつめられた4人は切れ
目なく飛んでくる銃弾に満身創痍となり、切り立った岩場に体を打ちつけながら転がり落ちるように退却
します。周囲は岩場ばかりで身を隠す場所もありません。更に援護を求めたくても電波状態が悪く無線が
繋がりません。
過去に、転落する痛みをこれほどリアルに描いた作品を観たことがありません。アメリカでは帰還兵の
中に精神に異常をきたした人たちが少なからず存在するという事実に、否応なく納得させられます。
<紅孔雀>
知人から、これはイイですよ!と勧められていた映画なので、どうしても観たかっ
た。吹奏楽の部活を通して成長していく中学生たちのお話しだ。
というと、これまでの「スウィングガールズ」などの作品を思い浮かべるが、「楽隊
のうさぎ」は、日常の描き方が、さらに丁寧で細やかである。
主人公の少年やまわりの部員たちの言葉、仕草を観ていて
「あー、自分にも昔あったなぁ」とか「その気持ち分かるよ」
と一気に中学生にタイムスリップした気分になった。
出演している中学生たちは、主役も含め全員がオーディションで選ばれた子どもたち
なので、演技もどちらかというとシロートっぽいのだが、そこがまた自然な感じを上
手く醸し出している。
しかし、楽器の演奏は猛特訓を受けただけあって、なかなかリアルで良い。演奏シー
ンも含めて全て撮影の際に同時録音で製作されたのだそうだ。どうりで、ドラマなの
だけれど何かドキュメンタリー風なイメージだったのね。
タイトルの「楽隊のうさぎ」のウサギさんもいい感じ。
(せん寿)