2013/5月掲載
「シャドー・ダンサー」「天使の分け前」
短評―<「桜、ふたたびの加奈子」「舟を編む」「じんじん」「プラチナデータ」>
シャドー・ダンサー
2011年 アイルランド・イギリス合作 上映時間1h41
「マン・オン・ワイヤー」でアカデミー長編ドキュメンタリー賞を
受賞したジェームズ・マーシュ監督が、愛する息子を守るため
密告者として生きる道を選んだ女性の姿を描くスパイサスペンス
です。
1993年の北アイルランド。ひとり息子のマークを育てるシングルマザーのコレットは、幼い頃に、父親から頼まれた
買い物を半ば強引に弟を行かせます。そのために弟を死なせてしまうことになるのです。コレットはそれをきっかけ
に、やがてIRA(アイルランド共和軍)のメンバーとして活動することになります。
ある時、ロンドンの爆破未遂事件の容疑者として逮捕されたコレットは、MI5(イギリス情報局保安部)の捜査官
マックから、息子と離されて25年間投獄されるか、IRAの動向を探るスパイとして働くかの選択を迫られ、
やむなくスパイとして生きることにします。一方、MI5の組織内に怪しい動きを感じたマックは、
「シャドー・ダンサー」というコードネームで呼ばれる、もうひとりの密告者の存在を突き止めますが……。
イギリスのジャーナリストで小説家のトム・ブラッドビーによる「哀しみの密告者」が原作です。
天使の分け前
2012年 イギリス/フランス/ベルギー/イタリア合作
上映時間 1h41
STAFF
監督・・・ケン・ローチ
脚本・・・ポール・ラヴァーティ
撮影・・・ロビー・ライアン
音楽・・・ジョージ・フェントン
CAST
ロビー・・・・ポール・ブラニガン
ハリー・・・・ジョン・ヘンショウ
アルバート・・ゲイリー・メイトランド
ライノ・・・・ウィリアム・ルアン
モー・・・・・ジャスミン・リギンズ
ファーストシーンで酔っ払いが無人駅のホームでふらついているとスピーカーから大きな声で「列車が来るぞ!
危ないから離れていろ」と叫ばれ怒られます。酔っ払いが逆らうと「死んでも知らんぞ」と突き放します。
思わずにんまり、つかみは抜群です。一気に引き込まれます。
ケンカの絶えない人生を送るロビー(ポール・ブラニガン)は裁判で懲役刑になりそうになりますが、弁護士の
訴えと恋人が妊娠中だということを考慮され300時間の社会奉仕活動を命じられます。
そこで出会った指導員ハリー(ジョン・ヘンショウ)は気のいい男でした。父親になったロビーのために高い
ウイスキーを振るまったりします。男の子の父親になったハリーはまともな生活を送ることを誓いますが
簡単ではありません。それでも精一杯の意思で徐々にまっとうな道へと歩き始めます。その過程でロビーが
ウイスキーのテイスティングに特別な才能があることが分かってきます。「天使の分け前」とは熟成中の
ウイスキーが年に2%ずつ蒸発していくその減り分のことをいうのですが映画の中での「天使の分け前」は
それ以上の意味があるのです。あるシーンではやりすぎとの印象を受けるかも知れませんがイギリスでも
若年層の失業率は高く、ぜいたく品に見栄を張る金持ちをシニカルな眼で観ているところがケンローチの
面目躍如たるところで痛快です。最後の最後で貧乏人が貧乏人らしく少し失敗してしまい「何やってんだか」
と苦笑いさせられます。
メインキャストはいつものように素人を起用しておりロビー役のポール・ブラニガンはこの映画と同様幼い
息子を抱えて失業中で自暴自棄になりかかっていた時に採用されたそうです。
2013/4/30 サロンシネマ <紅孔雀>
『桜、ふたたびの加奈子』
幼き娘、加奈子を事故で亡くした妻、娘の死を受け入れられない妻を
広末涼子。20年前は人気あったよね。その夫を稲垣吾郎。
20年前は…。偶然知り合った妊娠中の女子高生。彼女のお腹の子どもを
娘の生まれ変わりだと信じ込む。映像がダメ。不自然なアングルで
イライラさせる。音楽も浮いているし。非現実的なストーリー
とはいえ、いや、であるからこそ淡々と描くやり方もあったろうに。
最後に、加奈子が思い掛けない形で現われる。そこからは、いいけどね。
広末涼子も、稲垣吾郎も普通の役が出来ないね。 (やす)
『舟を編む』
主人公の「馬締(まじめ)光也」が辞書作りの部署に配属され、十数冊の辞書を買う場面があるが、その映像を観てうれしくなった。私もすぐ辞書を購入してしまうのだ。机の上には、広辞苑はもとより、逆引き広辞苑、常用字解、語感の辞典、類語大辞典、擬音・擬態語辞典etcが並ぶ。だから、テーマが辞書作りというだけで、採点が甘くなる。三浦しをんの小説に感動したが、これを動く絵にした石井裕也監督の力量にも感嘆。清々しい気分にさせられた珠玉の1本だった。(ふ)
『じんじん』
俳優の大地康雄が企画・主演の、父と娘の人情ドラマである。大道芸人、銀三郎(大地)が、農業を営む北海道の友人宅で出会った女子高校生は、幼いころに生き別れた娘だった。かたくなに心を閉ざす娘のために、父親である銀三郎が思いついたのは、かって娘が喜んだ“絵本”を創って読み聞かせをすること。マツダ車の冬場のテストコースとしても有名な剣淵町は、かぼちゃやじゃがいもの産地。雄大な自然をバックに繰り広げられる、大地康雄版『男はつらいよ』とも云える佳作。7月シネツイン本通りにて公開予定。(と)
『プラチナデータ』
原作が東野圭吾、主人公が二宮和也ということで、かなり期待して見に行ったが、その期待以上に面白かった。完成すれば検挙率100%、冤罪率0%の社会になるという、DNA捜査システムを作った天才科学者。彼自身が、そのシステムよって、身に覚えのない殺人事件の犯人にされてしまい、逃亡する。真実を解き明かす課程も楽しめるし、車があちこちにぶつかって爆発したりしなくても、カーチェイスはドキドキする。それに、拳銃で撃ちまくらなくても、走って逃げるだけでハラハラする。とても良く出来ている。(みかん)