母と暮せば
2015年 日本映画 2h10 <予告編>
監督:山田 洋次 音楽:坂本 龍一
出演:吉永 小百合/二宮 和也/黒木 華
終戦・被爆70年の節目の今年、作家の井上ひさしが「父と暮せば」に続いて構想し果たせな
かった物語を、山田洋次監督が長崎を舞台に映画化した。
「父と暮せば」が、広島を舞台とした父と娘の物語なら、「母と暮せば」は長崎を舞台にした
母と息子のお話である。亡き父が娘を思うばかりに現れて応援する「父と暮せば」は、娘の心
の中の葛藤と解せよう。ゆえに最後は死者の声として受け止めて前向きに生きていける。「母
と暮せば」の場合、そのメッセージは、息子・浩二(二宮和也)の恋人の町子(黒木華)に託
される。けれどもそれは、自分たちの幸せな未来を断ち切ることにつながる。最後に「どうし
てあの娘だけが幸せになるの」という母・伸子(吉永小百合)のセリフが胸に突き刺さる。ま
ことに、息子に先立たれた母親の苦しみ、悲しみはどんなに大きいか。
終戦から3年たって現れた息子の亡霊との心の交流は、母と子の甘い記憶を甦らせる至福の時
間だったのではないか。山田監督らしからぬCGを多用し、ラストも含めてファンタジーとし
て描いている。細部にわたって細やかに作り込まれた装飾・小道具の類、戦前、戦後の貧しい
中にも品の良い暮らしの風景が鮮やかによみがえる。さらに、伸子に心よせる上海のおじさん
(加藤健一)、復員局を訪ねる民子(本田望結)の気丈さ、町子が婚約者と訪ねる帰り際の情
景など、幾度涙したことか。
「僕の死は運命だったんだ」と言う息子に母は、「津波や地震は防ぎようがないから仕方ない
けど、原爆は防げたことなの、人間が計画して行った大変な悲劇なの」と語る場面に、戦争に
対する監督の思いを見た。
故・井上ひさしに捧げるオマージュとして、今年いちばん心を揺さぶられた映画となった。
(OK)