「ちょっと今から仕事やめてくる」 「八重子のハミング」 「わたしは、ダニエル・ブレイク」


 

 

『ちょっと今から仕事やめてくる

 

 

 2017年 日本映画 1時間54分 <予告編>

 

 

 監督:成島 出 

 

 

 出演:福士 蒼汰/工藤 阿須加

 

 

 

思いがけず、私自身の歩んできた人生と重なるところが多く描かれている作品だった。 私が初めて勤

 

めた職場で、顧客と上司から「○○辞めますか、それとも人間辞めますか」「次は死ななきゃいかんよ」と

 

告げられたことを思い出した。死ぬことまで思い詰めたとき、止まることができたのは、この作品と同様

 

に親の悲しむ顔が頭に浮かんだからだった。

 

私が3番目に勤めた会社は、毎朝社訓を唱和し、社長が従業員の自信を殺ぐ言動を続ける陰鬱な会社

 

であった。山本周五郎作品のような従業員同士の支え合いの世界に助けられ、私自身も楽しい職場づ

 

くりに努め、辞め際には条件改善を社長にも突きつけたりした。

 

この作品では、中盤まで原作に忠実なつくりになっていたのが、退職を申し出る時、原作のような対決

 

姿勢ではなかったのが残念に思った。

 

終盤に入ってからは完全に映画オリジナルのストーリーへと枝分かれしていき、結末での新天地への案

 

内は、『アバウト・シュミット』のようであり、『きっと、うまくいく』のようでもあった。私自身も同様に、子ども

 

たちとの活動のなかで自信を回復していったので、きわめて共感できた。

 

 『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』が、その表題とは裏腹に、ブラック会社

 

を肯定した結末になっていたことよりは遥かに健全であり、この映画を観て、ブラック会社で人生を棒に

 

振ることから脱出していく人が、一人でも多く出てくれることを心から願うものである。

                                                                                                                                 (竪壕)

 

 

 


 

 

 

八重子ハミング

 

 

2016年日本映画 2時間52分

 

<予告編>  

 

監督:佐々部清 

 

出演:升毅/高橋洋子 

 

 

若年認知症の妻との12年間を描いた映画『八重子のハミング』が公開中です。元教師の原作手

 

記を、『半落ち』(03)『夕凪の街桜の国』(07)などの佐々部清監督が映画化したもの。原

 

作にほれ込んだ佐々部監督が、大手映画会社の出資がない中で、自らプロデューサーと脚本も

 

め完成にこぎつけました。

 

映画は、介護保険制度が施行される以前1990年代、原作と同じ萩市を舞台に、夫(升毅)が亡

 

き妻(高橋洋子)を自宅で介護した経験を語る場面から始まります。24時間介護の実情、若年

 

認知症の理解し難さが描かれていますが、厳しい介護の現実を訴えているわけではありませ

 

ん。むしろ、妻と歩んだ12年にわたる夫婦の愛情物語として観ました。

 

妻の介護のため、市長に乞われた教育長を途中で退任、ひたすら妻に寄り添い歩む主人公の姿

 

に、何度涙したことか。長編映画初主演の升毅さんが夫役を真摯に、さらに28年ぶりの映画出

 

演の妻役、高橋洋子さんが魅力的な八重子を静謐に演じています。              (OK) 

 

(写真は「広島イオンシネマ」での舞台あいさつの佐々部清監督と升毅さん)

 


 

 

 わたしは、ダニエルブレイク

 

 

 2016年 イギリス・フランス・ベルギー合作映画 1時間40 

 

 監督:ケン・ローチ <予告編> 

 

 出演:デイブ・ジョンズ/ヘイリー・スクワイアーズ 

 

 

サロンシネマで『わたしは、ダニエル・ブレイク』を観ました。8割方の入りで何人か知人が

 

いましたが、中国新聞に道面さんが映画評を書いたからかも?

 

筆を折るならず、映画を撮るのをやめたというケン・ローチ監督の新作。監督の『ケス』

 

69)以来、日本で上映された大方の作品を観てきて、なぜ、人を大事にする政治にならない

 

のかと。イギリスの職業安定所の仕組み、民間委託の実態は初見ですが、雰囲気は日本の社会

 

保障の最前線の生活保護の現場に似ています。日本でも「下流老人」(『下流老人一億総老後

 

崩壊の衝撃』藤田孝典/朝日新書)をはじめ、高齢者の貧困がちょっとした支えがないとあっ

 

という間の増大していく様子が指摘されています。

 

最初の面接や、いろいろな場面で、ダニエルが言うコトの本質を突くセリフには、つい「そう

 

だ」と笑わされます。偶然に知り合った母子たちとの関わりの中で、彼のこれまでの人生が見

 

えてくることで、最後のシーンの音楽も生きています。映画としては、個人の尊厳の大事さを

 

訴えるあの終わり方でいいのでしょうが、私個人はその後も是非みたいと思いました。

 

いよいよ始まる不服申立の審査、相談していた車椅子の男性は支援ボランティアか、ひょっと

 

したら弁護士かも? 日本の「反貧困ネット」や社会保障支援の様々な弁護団、アメリカのグ

 

リシャムの「路上の弁護士」(『路上の弁護士』ジョン・グリシャム/新潮文庫)などのよう

 

に、多くの支援者もいます。倒れずに、その後の審査官とのやりとり、理不尽な認定の取消ま

 

で観たかった。

 

5/3ヒロシマ憲法集会でメインスピーチをされた清水雅彦教授(日体大・憲法)は、週に1

 

本は映画を観ることにしているそうで、この映画もお薦めだと言っていました。まだ、上映中

 

ですので、どうぞ。                           (ストーン)