2014/2月掲載
「少女は自転車にのって」「アメリカン・ハッスル」<「小さいおうち」-2>投稿
少女は自転車にのって
2012年サウジアラビア・ドイツ合作 上映時間1h37 <予告篇>
監督/脚本:ハイファ・アル=マンスール
出演:ワアド・ムハンマド リーム・アブドゥラ
アブドゥルラフマン・アル=ゴハニ
サウジアラビアの首都リヤドに住む10歳のワジダは、人と群れない、それでいて天真爛漫な女の子です。
ワジダが通う女子校では、戒律を重んじる女校長がいつも目を光らせ、笑い声を立てただけで注意が飛びます。
制服の下はジーンズとスニーカー、スカーフも被らず登校するワジダは当然、問題児扱いです。学校の帰り、
綺麗な自転車がトラックで運ばれるのを目にしたワジダは、思わず追いかけます。自転車は雑貨店に入荷した
もので、値段は800リヤル(1リヤルはおよそ27円)でした。帰宅後、ワジダは自転車が欲しいと母に懇願します
が、全く相手にしてもらえません。そこでワジダは自分でお金を貯めて買おうと決意するのです。
手作りのミサンガを学校でこっそり友達に売ったり、上級生の密会の橋渡しのアルバイトをするものの、
800リヤルには程遠い。そんな中、学校でコーラン暗唱コンテストが行われることを聞きます。
優勝賞金は1000リヤル。コーランは大の苦手のワジダでしたが、賞金で自転車を買おうと、迷うことなく
立候補します。ワジダはその驚くべき集中力で、次々にコンテストを勝ち抜いていくのですが、結果、大人の
理不尽さを知ることになるのです。ラスト、思いもかけないことで手に入った自転車に乗り、颯爽と風を切る
ワジダの顔に笑顔がはじけます。ワジダを演じたワアド・ムハンマドは監督の姪っ子です。
映画館設置を禁じられた国、サウジアラビアから初の女性監督としてデビューを飾ったハイファ・アル=マン
スール。映画はワジダを通してサウジの現状を静かに描き出します。それらは男社会であるがゆえに、
すべて女性にとって理不尽なものばかりなのです。女性は車を運転してはいけません。だからワジダの母親は
職場を選ぶのにも苦労をします。男性に聞こえる様な大声を出してもいけないのです。挙句の果てに父親は
男の子欲しさに第二夫人と暮らし始める始末です。更には家系図には男性の名前しか書かれていません。
ワジダはその家系図に自分の名前を貼り付け、ささやかな抵抗を試みます。この映画はそんな男絶対社会の
理不尽さを声高に叫ぶのではなくワジダの眼を通してサウジの現状を淡々と写し出して見せるのです。
息がつまるような国、サウジですがこの監督に従った男の映画人がいたわけですから少しずつ風穴が開いている
のかもしれません。やがてサウジアラビアの映画史が刻まれるとき、この作品は記念碑的な映画として最初の
ページに記録されるに違いありません。(原題Wadjda) 2014/2/26 サロンシネマ <紅孔雀>
アメリカン・ハッスル
2013年製作 アメリカ映画 上映時間 2h18 <予告篇>
監督:デビッド・O・ラッセル
出演:クリスチャン・ベール
ブラッドリー・クーパー
ジェレミー・レナ―
エイミー・アダムス
野心、上昇志向満々で、無理押しの自己肯定感が強烈な面々が出てくる、まさにアメリカ料理の映画。
映画の惹句からは、「サギ」の実話の映画だと判るのですが、出だしから長~い禿隠しのカツラ乗せのシーンが
象徴的です。脅かされ、振り回され、マフィアも出てきて追い込まれた2人の、一発逆転攻勢や如何に?!
昔見た、P・ニュマンとR・レッドフォード、それに騙され役のギャングにR・ショーという、一発大逆転の
痛快な映画「スティング」がありました。あれほど格好良くなく、大仕掛けではないのですが、FBIからもマ
フィアからも、最も難敵の妻から、我が身を守るための仕掛けをどうぞ。アメリカではコメディ部門で評価だそ
うですが、結構辛辣なやりとりがあり、これでコメディかな?という印象です。日本人には、大皿にどさっと
乗ったステーキを、さあ旨いぞと言われているようなところも・・・。
さすが貫禄たっぷり、迫力があるのは、カジノを牛耳るマフィアのボス!!
誰が演じているかはご覧になってのお楽しみ。 2014/2/10 シネツイン <石>
黒木華さんの女中のタキちゃん役がすごく良かったです。素朴で透明感のあるカンジはどことなく蒼井優ちゃんを
彷彿とさせますナァ。トキ子役の松たか子も最初はおっとりマイペースな女主人なのかなと思っておりましたが、
恋に溺れると余裕のなくなる様や、他が見えなくなる様など女性として描かれていたなと思います。一瞬の燃え上
がるような恋・・・。もし戦争がなければ、もしあのときタキちゃんが手紙を渡していれば、と様々な“もし
も”を考えてしまいます。もし戦争が終ったあとでタキちゃんとトキ子さんが再会できていたら・・・。
(20代女性)
「小さいおうち」というタイトルと柿色のチラシの表面から、このような内容であることは想像できませんで
した。映画を観て「小さいおうち」というのは暮らしていた赤い屋根の家のことでもあり、「小さなひとりひとり
のわたくしたち」それぞれの内面の象徴ではないかと思いました。「小さなわたくし」の記憶は、他人が聞くと
「まさかそんなことが」と思われるくらい嘘っぽいものもあるけれど、各々の記憶を集めていくと「真実」が見え
てくるし、「歴史」が正しく後世に伝わるのだと思います。「小さなわたくし」の記憶には、苦しかったものも含
まれます。年をとればとるほど、苦しい記憶も長くかかえなければならないのです。
「小さいおうち」は早くなくなったけれど「小さなわたくし」は長く生きすぎてしまった、と感じる晩年のタキ
の号泣シーンはほんとうに切なく感じました。
(40代女性)