2012年12月掲載

 

「マーティ」「サムライ」「告発の行方」「霧の旗」

 

 

 マー 

 

   1955年日本公開 アメリカ映画 上映時間131

 

   STAFF

    監督・・・デルバート・マン

    脚本・・・バディ・チャイエフスキー

    撮影・・・ジョセフ・ラシェル

    音楽・・・ロイ・ウエッブ

          ジョージ・バスマン

 

 

  CAST

   マーティ・ピレッティ・・・アーネスト・ボーグナイン

   クララ・スナイダー・・・・ベッツィ・ブレア

   テレサ・・・・・・・・・・エスター・ミンチオッティ

   アンジー・・・・・・・・・ジョー・マンテル

 

 ニューヨーク・ブロンクスの肉屋で働いているマーティ(アーネスト・ボーグナイン)は誠実な青年です。

 

 兄弟が多く長男で早くから父親がいなかったため弟や妹の面倒をみてきました。そのために一人婚期を逃し

 

 母のテレサと2人暮しをしてます。周りからは「早く結婚を・・・」とせっつかれ本人も、良い相手があったら

 

 早く身をかためたいとあせっていますが容姿に恵まれていないことや、内気な彼は気の利いた言葉で女性を誘う

 

 ことができません。土曜日の夜、仲間とダンスホールへ行ったマーティは1人淋しそうにテーブルに坐っている

 

 娘(ベッツイ・ブレア)が眼にとまります。彼女は友だちと一緒に来たのですが、彼女があまり魅力のない娘なので

 

 パートナーに置き去りにされたのです。マーティは恐る恐る声をかけてみます。娘の名前はクララ。

 

 学校の教師をしていました。母親にクララを紹介すると、あれほど結婚を望んでいた母テレサがあれこれと難癖を

 

 つけ始めます。嫁との折り合いがつけられず転がり込んできた母の妹キャサリンも母に悪知恵をつけます。

 

 酒場に行けば行ったでいつもの仲間がクララが醜いとか魅力がないといって、マーティに電話をかけさせません。

 

 しかし、マーティは・・・。

 

 今年(2012年)7895歳で亡くなったアーネスト・ボーグナインがその風貌からは想像できない芸域の

 

 広さを見せてくれます。粗暴な役の印象が強いのはたぶん「ワイルド・バンチ」のダッチや「北国の帝王」の

 

 シャックが余りにも強烈だったからでしょう。ボーグナインはこの作品でアカデミー主演男優賞を受賞して

 

 います。製作にはバート・ランカスターが加わっています。1955年(昭和30年)製作ですがニューヨークでは

 

 既に夜中の1時を過ぎてもバスが走っていたんだなと妙に感心しました。

 

 ちなみにこの作品はもとはテレビドラマ(1953)でそのときのマーティ役はロッド・スタイガーでした。

 


  

  サライ

 

      1968年 日本公開 フランス映画 

      上映時間145 <予告篇>日本語字幕なし 

  

  STAFF

   監督・・・ジャン=ピエール・メルビル

   脚本・・・ジャン=ピエール・メルビル

          ジョルジュ・ベルクラン

   撮影・・・アンリ・ドカエ

   音楽・・・フランソワ・ド・ルーベ

 

                  CAST

                   ジェフ・コステロ・・・・・・アラン・ドロン

                   警視・・・・・・・・・・・・フランソワ・ペリエ

                   ジャーヌ・ラグランジュ・・・ナタリー・ドロン

                   ヴァレリー・・・・・・・・・カティ・ロジェ

                   オリヴィエ・レイ・・・・・・ジャン=ピエール・ポジェ

 

 ジャン=ピエール・メルヴィル監督、アンリ・ドカエ撮影によるフランス・フィルム・ノアールの

 

 代表的作品です。ある殺し屋の2日間の出来事を追った物語です。映画の展開は淡々としており、決して派手な

 

 作品ではありません。セリフは全編を通じ驚くほど少なく映像は実にスタイリッシュです。また殺人の依頼人が

 

 いかなる人物なのか、殺人の被害者であるナイトクラブのオーナー、マルテがなぜ殺されなければならなかった

 

 のかなど、全く説明がありません。そして、主人公である、アラン・ドロン演じるジェフ・コステロという男が

 

 どんな人物なのか、なぜ殺人を仕事としているのか、などに対する説明も一切ありません。

 

 

 映画は44日土曜、午後6時。パリのあるアパートの一室から始まります。

 

 一羽の小鳥が鳥かごの中でさえずり部屋には紫煙が漂っています。やがてこの部屋の住人で殺し屋の

 

 ジェフ・コステロ(アラン・ドロン)が思い立ったように起き上がり、トレンチコートを羽織り、帽子を被ると

 

 出かけていきます。通りに出たジェフは辺りを警戒しながら、車を盗み走り出します。

 

 途中、ナンバープレートを取りかえ愛人ジャーヌ(ナタリー・ドロン)の元へと行き、アリバイの依頼をします。

 

 ここまで凡そ10分、全くセリフがありません。

 

 やがてジェフはあるクラブの裏口から浸入し、オーナーであるマルテを射殺します。

 

 しかし、その部屋から出た瞬間、ピアニストのヴァレリーに顔を見られてしまいます。警察が動き始めます。

 

 何人かの目撃者の供述から、帽子にトレンチコートの男がパリ中から集められ、ジェフも参考人として連行

 

 されます。一番近くで犯人を見たはずのヴァレリーは何故かジェフは犯人ではないといいます。

 

 ジェフは釈放されますが容疑者となったジェフを今度は依頼主が狙います。ジェフはクラブの前でヴァレリーを

 

 待ち、なぜ庇ったのか、マルテ殺害の依頼人を知っているのではないか、と訊ねます。

 

 やがて依頼人オリヴィエ・レイとヴァレリーの関係を知ったジェフはオリヴィエを射殺。ナイトクラブへと

 

 向かいます。カウンターに陣取ったジェフは手袋をはめると、オルガンを弾くヴァレリーにむかって拳銃を

 

 構えますが・・・。寒々とした映像と相まって全ての者を拒絶するようなドロンのクールな演技が見ものです。

 

 鳥かごの中にいながら小鳥が意外な大役を果たします。




 

 告行方 

  

  1989年日本公開 アメリカ映画 上映時間151

 

 STAFF

  監督・・・ジョナサン・カプラン

  脚本・・・トム・トーバー

  撮影・・・ラルフ・ボード

  音楽・・・ブラッド・フィーデル

 

                       CAST

                        サラ・・・・・ジョディ・フォスター

                        キャサリン・・ケリー・マクギリス

                        ケン・・・・・バーニー・コールソン

                        サリー・・・・アン・ハーン

 

 映画は酒場から飛び出してきた若い男が、公衆電話で警察にレイプ事件が起きていると通報するところから

 

 始まります。彼の後を追うように半裸の女性が飛び出してきます。女性の名前はサラ(ジョディ・フォスター)。

 

 彼女を3人の男達がレイプしたのです。サラから事情を聞いた地方検事補キャサリン(ケリー・マクギリス)は、

 

 犯人達を確認します。しかし、彼らは当然のように合意の上だと主張し、キャサリンも当時サラがかなり酔って

 

 いたこと、マリファナを吸っていたこと、挑発的なポーズを取っていたことなどから裁判に勝ち目が無いと思い

 

 弁護人との司法取引に応じて過失傷害で決着させてしまいます。この事実を知ったサラはキャサリンをなじり、

 

 深く傷つきます。サラはキャサリンに「私は何度もノーと叫んだ。周りで何人もの男たちが囃したてていた」と

 

 訴えます。その声を受け止め、裁判にするしないを勝つか負けるかだけで判断していたことを反省したキャサリン

 

 は、上司の猛反対を押し切り女性として検事として再び事件を裁判の場で問う決意を固めます。

 

 今度はレイプを煽り、そそのかした男達をレイプ教唆罪で告発します。自堕落な生活を送っていたサラが

 

 裁判が進むにつれ毅然とし、美しくなっていきます。

 

 太り気味だったジョディ・フォスターがシェープ・アップしてオーディションに臨み見事にこのサラの役を

 

 勝ち取りました。その熱意は第61回アカデミー主演女優賞となって実を結びました。

 

 それは彼女が26歳のときです。

 


 

 霧  

 

 1965年 日本映画 上映時間151 予告篇

 

CAST                                    STAFF

 原作・・・松本清張         柳田桐子・・・倍賞千恵子

 監督・・・山田 洋次          大塚欽三・・・滝沢  

   脚本・・・橋本 忍                    河野径子・・・新珠三千代

 撮影・・・高羽哲夫         阿部幸一・・・近藤   洋介

 音楽・・・佐藤  勝                 柳田正夫・・・露口  

 

 

 1965年山田洋次監督 若干33歳の時の清張作品の映画化です。

 

 映画版「男はつらいよ」1作目の4年前になります。

 

 撮影も後に「男はつらいよ」で組むことになる高羽哲夫。下宿の家主に後に寅のおばちゃん役になる三崎千恵子。

 

 ファーストシーン、思いつめた表情の柳田桐子(倍賞千恵子)が熊本から上京してきます。

 

 著名な弁護士大塚欽三(滝沢修)に殺人罪で逮捕された兄(露口茂)の弁護を依頼するためです。

 

 しかし大塚は多忙と弁護料が払えない事を理由に体よく断ります。桐子は「貧乏人だからという理由で無実の者を

 

 見捨てるのですか」と食い下がりますが無駄でした。途方に暮れて桐子が東京の街をさまよいます。

 

 雑踏や行きかう車の音は消され、ただ桐子の靴音だけが響きます。彼女の孤独が真に迫って秀逸なシーンです。

 

 一年後、桐子から大塚弁護士にはがきが届きます。それは兄が一審で死刑の判決を受け、上告中に獄中で病死した

 

 というものでした。大塚弁護士は桐子のことはすっかり忘れていましたが、ふと興味を持ち裁判記録を取寄せ

 

 調べてみるとあることに気が付きます。そのころ天涯孤独の身となった桐子が上京してきます。

 

 彼女はある目的を胸に秘めていました。

 

 モノクロ画面からその後の山田作品からは想像できない異様な緊張感が漂います。

 

 それはいささか筋違いともいえる桐子の思考や行動からきていると思われるのですが、橋本忍が強く推薦したと

 

 言われる倍賞千恵子が、思いつめた少女から次第にしたたかな女になっていく様を見事に演じています。

 

 少し説得力に欠ける軽薄な弁護士役ですが 滝沢修もさすがです。やはり映画はシナリオと演出だということを

 

 再認識します。