「太陽の蓋」 「ニュースの真相」


 

 

太陽

 

 

 2015年  日本映画 2時間10分 <予告編>

 

 監督:佐藤 太

 

 出演:北村有起哉/袴田吉彦/中村ゆり/三田村邦彦

 

 

未曾有の地震と津波に加え福島第一原発事故が重なった3・11から、はや五年が経った。あ

 

の日、官邸で、福島第一原発(イチF)で何があったのかを忠実に再現する映画『太陽の蓋』

 

が公開され、一足早く大阪で観てきた。

 

閣僚が実名で登場する映画は日本では初めてではないか。当時、民主党政権の菅直人総理大

 

臣、枝野幸雄官房長官、福山哲郎副官房長官、寺田学首相補佐官等の面々だ。官邸内での出来

 

事をノンフィクションで、さらに東京で暮らす母子とイチFで働く若者とその一家のドラマを

 

フィクションで描いている。

 

五年前のあのとき、大阪でも揺れが長く続いて酔いそうな気分だった。仕事中だったが誰か

 

が、宮城沖震源の大地震を告げた。とっさに、原発は大丈夫か、宮城には女川があったはず、

 

と気になったものの、まさか福島だったとは。

 

地震・津波に加え、福島でのまさかの全電源喪失により冷却装置が機能せず、炉心溶融から水

 

素爆発により大量の放射性物質が放出されるという史上最悪の原発事故が重なった。翌12日

 

の1号機の原子炉建屋が水素爆発により吹っ飛ぶ映像が繰り返し流れた。そして例の「直ちに

 

健康に影響がない」と言う防災服の枝野官房長官の会見姿を思い出す。

 

映画は、新聞記者を狂言まわしに、官邸を中心に五日間の緊迫した日々を徹底的に事実に基づ

 

き追う。実は事故後の原発の状況が官邸に知らされていなかった。業を煮やし、現地に飛び、

 

東電本社(映画では東日電力)に乗り込み、撤退は許さないと叫ぶ首相。その間にも、現地で

 

は必死の作業が続く。そうした中、すぐ戻れると信じ避難を余儀なくされる人々。次第に指摘

 

される放射能の影響に、情報を求める母親の姿と、真実を伝えようともがく新聞記者、なすべ

 

もなく頭を抱える関係者らの姿を通して、一歩間違ったら東京も危なかった原発事故の恐ろし

 

さを伝えていく。

 

翌年、脱原発デモが国会前を埋め尽くし、日本にある全原発が停止したのもつかの間。政権に

 

替わると、原発は「重要なベースロード電源」と位置付けられ、まるで事故などなかったかの

 

ように再稼働がすすみ、あろうことか海外にまで輸出しようとしている。記憶の風化はすすむ

 

一方だ。

 

映画の終わり間際、あの日発令された「原子力非常事態宣言」は未だに解除されていないとい

 

う事実を知らされ、原発事故は実はまだ終わってはいないのだという重い現実を観る者に突き

 

つける。

 

なお、広島では横川シネマで9月1日から公開予定。

                      (O・K)

 


 

 

ニュース真相

 

 

 2015年製作 オーストラリア/アメリカ合作 上映時間205  <予告篇

 

  

 監督:ジェームズ・バンダービルド

 

  

 出演:ケイト・ブランシェット (メアリー・メイプス)

 

    ロバート・レッドフォード (ダン・ラザ―)

 

    エリザベス・モス (ルーシー・スコット)

 

    デニス・クエイド (ロジャー・チャールズ中佐)     

 

 

2000年アメリカ大統領選挙は、共和党のジョージ・W・ブッシュ対民主党のアル・ゴアで争

 

れ、法廷にまで持ち込まれる大接戦となり、その結果ブッシュが第41代大統領に就任しま

 

す。そして、2001年には9.11同時多発テロが発生し、ブッシュはそれを引き金に2003年に

 

イラク戦争を開始します。さらに2004年ブッシュは二期目を目指して大統領選挙に立候補し

 

ます。相手は民主党のジョン・ケリーです。その選挙戦の最中に起きたあるスクープ報道の一

 

部始終を描いた実話です。

 

米国最大のネットワークを誇る放送局CBSのプロデューサー、メアリー・メイプスは、伝説的

 

ジャーナリストのダン・ラザーがアンカーマンを務める看板番組60ミニッツⅡ』で、ブッ

 

シュの軍歴詐欺疑惑というスクープを報道します。その翌朝、「証拠は偽造されたものだ」と

 

ブロガーから指摘されます。メアリーたちスタッフは反論を試みますが、証言をひるがえす情

 

報提供者、態度を硬化させる会社の幹部たち。メアリーは内部調査委員会に呼ばれその取材方

 

法や思想・信条、果ては人間性までもが事細かに“検証”されていきます。その恐怖と孤独を

 

ケイト・ブランシェットが繊細に演じています。調査委員会でメアリーが鋭く問いかけます。

 

「あなたたちは問題を矮小化し、論点をすり替えている」思わず「沖縄密約事件」を思い出し

 

す。長回しワンカットで見せるこのシーンの迫力は相当なインパクトがあります。

 

この『ニュースの真相』は事実を巡ってメディアと権力が激しく火花を散らす報道の現場を描

 

ています。追及に及び腰になり、劣化していくメディア。そんな状況のなかで、信念を貫く

 

たりを、ケイト・ブランシェットとロバート・レッドフォードが熱演しています。最後まで

 

報道の重要さを信じ続けた人々を描いた本作は、メディアの萎縮が問題になっている日本に

 

とっても極めて今日的です。劇中のラザーのセリフ、「どんなに批判されても(メディアが)

 

質問をしなくなったらこの国は終わりだ」という言葉が重く響きます。2000年の大統領選

 

挙、環境問題に熱心だったゴアが大統領になっていたらその後の世界の歴史は変わっていたの

 

ではないだろうか、ふとそんな思いもよぎりました。原作はメアリー・メイブス自身で原題は

 

Truth(真実)』 ジェームズ・バンダービルドの初監督作品。    

 

                                     <紅孔雀>