ジャッキー ファーストレディ 最後の使命
2016年 アメリカ・チリ・フランス合作映画 1時間39分 <予告編>
監督:パブロ・ラライン
出演:ナタリー・ポートマン
ナタリー・ポートマンが、ジョン・F・ケネディ元アメリカ大統領夫人ジャクリーン・ケネディを演じ、ケネディ
大統領暗殺事件をファーストレディの視点から描いた伝記ドラマ。『NO』のチリ人、パブロ・ラライン監督
作品。
なぜ彼女は、夫の突然の死で人生が一変したわずか3日後に、今も語り継がれる偉業を成し遂げること
ができたのか、という制作者の疑問から徹底的にリサーチが始まり、知られざる彼女の真実に迫る感動
作と評価された。
彼女が記者の取材に答えながら当時を回想していくという展開で、夫が亡くなったという悲嘆にくれなが
らも、気丈に振る舞い、葬式の内容やホワイトハウス退居の進め方について、周囲の雑音に牽制された
り、亡夫の倹約さを考慮して迷いながらも、最終的には自分の意地を通すという結末となった。それでこ
そ、国立墓地の夫の側に埋葬されるに値するファースト・レディとして評価されることになったのだろうと
感心する他なかった。
(竪壕)
ライオン 25年目のただいま
2016年 オーストラリア映画 1時間59分 <予告編>
監督:ガース・デイビス
出演:デブ・パテル/ルーニー・マーラ/ニコール・キッドマン
インドで迷子になった少年が25年後「グーグル・アース」で故郷を探し出したという実話を豪華キャストで
映画化したヒューマンドラマ。
主人公役を『スラムドッグ$ミリオネア』の役者が演じるということもあり、似たような展開を期待したが、
かなり違っていた。インドで迷い出た描写の場面が長く、人さらいにさらわれそうな危険も描かれていた
が、良質のソーシャルワークに救われて、幸運な養育を送れていた。
オーストラリアを舞台とした実話に基づく子どもの問題を描いた『オレンジと太陽』とも違う。さらに難を言
うと、成人までの20年間が省略され、養育親や義兄の描写も物足りなかった。養育親のあの寛大な姿
勢がどのようにして形成されたのか、義兄がなぜ荒んだ生活を送るようになったのか、養育親がその義
兄を心配する気持ちを、主人公がなかなか理解できなかったのはどういう経緯があったのか等。
最後にユニセフ協会への協力依頼が字幕で出るが、これはオリジナル版でもあったのかどうか。『アバ
ウト・シュミット』では、作品中にプラン協会の取り組みそのものが描かれるが、この作品では、ユニセフ
の関与があったのかどうか不明なところも残念に思った。
(竪壕)
ブラインド・マッサージ
2014年 中国・フランス合作映画 1時間55分 <予告編>
監督:ロウ・イエ
出演:ホアン・シュアン/チン・ハオ/グオ・シャオトン
中国・南京の盲人マッサージ院で巻き起こる人間模様を描く。毒舌タレントの一人と目される坂上忍氏
が絶賛する作品でもあるので、注意して観てみた。
初っぱなから、度肝を抜かれる場面があり、途中でも何度か痛々しい出血の場面がある。少し経ってか
ら、中国の盲教育事情の概略説明がなされている。予告編であったような生々しい性行為場面もある
が、様々な個性のある盲人が登場して、「己の美に嫌気がさした女」と「美に執着する男」とのセクハラ関
係が描かれるのと対照的に、「欲望のなかで己を失う男」が、商品としての愛を提供する女と、思いがけ
ない真実の愛へと向かおうとしていた。
健常者社会を障害者社会の憧れの世界として「主流社会」と表現しているところは、日本のある障害者
運動団体が「健全者文明」と呼んで、そうした憧れを克服しようとする見方にも通じるところがあると思わ
れた。
(竪壕)
フィッシュマンの涙
2015年 韓国映画 1時間32分 <予告編>
監督:クォン・オグァン
出演:イ・グァンス
薬の副作用で外見が魚になってしまった男の悲哀を描く、韓国製の異色青春モンスター映画。似たタイ
トルの『エレファント・マン』と比べて、奇形の発端は違うけれど、関わった人たちのなかで、やはり同じよ
うに、主人公に対して誠実に寄り添ってきたかどうかの問い直しが行われたことが有意義だと思われ
た。
韓国でも日本と同様に、多くの非正規雇用の若者たちの不満のあることを背景に描いているが、この作
品の主人公は、元の自分に戻ることを選ばず、変異したままの自分が他人の偏見を気にすることなく自
由に生きられる世界を目指した。
これは、「ゆとり世代」と批判される日本の若者自身が目指そうとする生き方にも共通するかと思われ
た。この作品の主人公のその後の生活について、記者が改めて取材して真実を知らせようとするのは、
余計なお世話ではないかと思った。
(竪壕)
スプリンブ、ハズ、カム
2017年 日本映画 1時間42分 <予告編>
監督・脚本:吉野 竜平
出演:柳家 喬太郎/石井 杏奈/朴璐美/角田晃広/柳川慶子
横川シネマで『スプリング、ハズ、カム』を観た。中学校で習って覚えた英語そのままのタイ
トルが、弾んでる感じが出てぴったりだ。
映画は、男手一つで育てたひとり娘とともに広島から上京した二人が、春から大学生になる娘
のため部屋探しの一日を描く。その昔、大阪の大学で独り暮らしを始めるべく下宿を探して親
父と歩いたことを思い出した。
父親役の柳家喬太郎が、落語を見ているような語り口でおかしい。何より娘、璃子役の石井杏
奈が撮影当時の16歳しか出せない透明感あふれる演技で魅せる。脇役も個性派ぞろい。不動
産屋(東京03の角田晃広)とか、大家のおばさん(柳川慶子)、飴ちゃん配るのは大阪だけ
かと思いきや東京にもいたんだ!
入学する東京の大学がTVドラマだと架空の名前だが、ここではちゃんと実名で出てくる。下
宿する最寄駅が小田急電鉄小田原線の祖師ヶ谷大蔵駅だが、近くにある大学である。
広島弁もいい。璃子が父に「こたつで寝ちゃダメよ。起こす人がおらんくなるけぇね」。これ
正統?な広島弁だと「こたつで寝ちぁいけんよ。起こすもんが、おらんようになるけぇ」かな
と思いつつ、父思いの優しさに思わずうるっ。
この日、監督が舞台あいさつ。広島出身にしたのは、経済的に豊かでない父親が夜行バスで何
とか来れる場所と広島弁で決めたと話された。実際に広島の街を歩き、二人が住む団地を探し
てたどり着いたのが、何とアストラム牛田駅の川沿いの団地だとか。石井杏奈は役作りのた
め、単身来て小学校とか近所に足を運んだという。
ゆったりしたテンポに気持ちよく浸りながら、ホロリとさせられる、広島縁の映画☆4つ。
見逃した人、6月にまた上映するそうなので、その時はぜひ。 (OK)