「恋とボルバキア」 「嘘を愛する女」 「否定と肯定」 「人生はシネマティック!」 「希望のかなた」

 

 

とボルバキア

 

 

 2017年 日本 1時間34分 <予告編> 

 

 監督:小野 さやか 

 

 出演:王子/あゆ/樹梨杏/蓮見 はずみ/みひろ/井上 魅夜/相沢 一子/井戸 隆明 

 

 

「ボルバキア」とは、宿主を性転換させる共生バクテリアの一種ということである。

 

このドキュメンタリー作品に登場するのは、LGBTである8人。お洒落がしたくて女装を始めたらいつのま

 

にか男の人に恋をしていたり、素敵な女の子に一目惚れをしたら彼女は彼(MtFトランスジェンダー)だっ

 

。現実が時におとぎ話のようにドラマティックで、「性」は白と黒では分けられないくらいカラフルで混

 

沌したグラデーションで形成されている。一括りにできない、それぞれの人の複雑な事情が描かれてい

 

る。そのように性転換を促す理由づけとして、「ボルバキア」の実在を想定しているようである。それだけ

 

赤裸々にLGBTたちが自己開示するに到るには、制作者が相当の努力で信頼関係をつくりあげた成果

 

であろうと思われた。

 

上映後に監督のトークにおいて、制作の過程が明かされた。監督が映画学校に関連してテレビドキュメ

 

ンタリー制作の指示を受けてLGBTのことをよく知らないまま取材を始め、当事者の一人からは拒否され

 

るほど、配慮なく進められたものだったようである。それでも、テレビ番組として完成に漕ぎ着けたもの

 

の、不完全燃焼だったので、4年ほど出演者にもノーギャラで追跡取材をさせてもらい続け、そのうち

 

に、当事者たちも気持ちが吹っ切れたように、ありのまま表現したいことを出してもらえるようになったと

 

いうことだった。予想外の裏事情であった。

 

さらに監督が語るには、7年前の初作品である『アヒルの子』は、監督本人が成長の過程で恨みを抱く家

 

族の姿を、当事者たちの気持ちを確認せずに撮影し、制作して上映したということであった。再上映に当

 

たり、当事者たちに改めて確認したら、猛反対を受け、長電話での押し問答の末、押し切ったということ

 

である。それぞれの作品は、それなりの評価を受けているようなので、今後は取材当事者の諒解の下

 

に制作を進め、さらなる良作の産出を期待したいものである。                (竪壕) 

 

 

 

 

嘘をする女

 

 

2018年日本映画 1時間58分 <予告編> 

 

監督:中江 和仁 

 

出演:長澤 まさみ/高橋 一生/吉田 鋼太郎 

 

 

「いつも傍にいた愛する人、その全てが嘘でした」という予告で、スパイか何かだったのかと

 

思ったら、サスペンス的要素は無く、ラブストーリーだった。辛い過去を捨て、別人として生

 

きる男、全てを知りたいと、探偵を雇い調査を始める女。調べていくうち、女は本当に大切な

 

ものに気付く。再生の物語でもあり、ロードムービーでもある。笑いと涙の塩梅もよく、心地

 

良い。重い話なのに、甘くて軽い。                                       (アサコ)

                    * 

                  

 

27年前、朝日新聞朝刊に「夫は誰だった」の見出しで記事が載った。その年に病死した自称医

 

師なる男性が、実は正体不明の人物で5年間連れ添った女性が途方に暮れているという内容だっ

 

た。作家の辻仁成がこの記事に触発され「存在証明」という随想を著す。かの男性が偽の身分

 

証明証のほか原稿用紙700枚に及ぶ未完の小説を残したことに着目し「自分の存在を100%創作

 

したのか」と推理した…。(今年2月2日付朝日新聞「天声人語」より)

 

この随想を高校時代に読んだのが中江和仁監督。この話をいつか映画にしようと脚本を書き、

 

そうして10年かけた企画が映画コンペを制し完成したのが映画『嘘を愛する女』。なぞの研究

 

医を高橋一生、恋人役を長澤まさみが好演する。謎解きに瀬戸内を旅するロードムービーとし

 

ても趣き充分。ラブストーリーなのもよい。                                   (OK)

 

 

 

 否定と肯定

 

 

 

 2016年 イギリス・アメリカ合作映画 1時間50分 <予告編> 

 

 監督:ミック・ジャクソン 

 

 出演:レイチェル・ワイズ/トム・ウィルキンソン 

 

 

1週間の上映、午前中の1回と聞き、日曜の朝、やりくりして観に行きました。実際に2000

 

にイギリスであった、ホロコースト否定の学者との訴訟を描いた映画ですが、訴訟のことは知

 

りませんでした。

 

イギリスは、日本やアメリカなどと違って、法廷弁護士と事務弁護士がいるので、ちょっと分

 

かりずらい。でも、長い訴訟の過程を、その準備段階、特にアウシュビッツの訪問から丁寧に

 

描き、その大変さが浮き彫りに。ディスカバリー(事前の互いの証拠開示)でしょうが、膨大

 

な相手の日記を借りての分析は、考えただけでも!? 

 

実際の訴訟では、もっと多くの誤引用、原典の意図的な修正などを一つ一つ暴いていったので

 

しょうが、映画では少しだけでした。日記やあちこちでの講演から、学者の意図を浮き彫りに

 

する様子は、自分の発言などがなんでも記録される今日ではギョッとします。

 

そして、ホロコーストはなかったと主張する学者の「執拗なまでの言い張る?姿」は、ヘイト

 

スピーチを公然と声高に叫ぶ**会の姿や、フェイクニュースを平気で流すどこかの大統領と

 

もダブります。

 

原題の「DENIAL」は、法律の場面では「否認」です。映画では、ホロコーストの否定を

 

意味しつつも、主人公の訴訟での姿勢をも重ねているのでしょうか? 何の映画なのかわかり

 

にくい邦題ですが、観終わればナルホドとも思えます。   

                                   (ストーン)

 

 

人生はシネマティック!

 

 

 2016年イギリス映画 1時間57分 <予告編> 

 

 監督:ロネ・シェルフィグ 

 

 出演:ジェマ・アタートン/サム・クラフリン

 

 

映画を観終ったあとすぐに、もう一度観たいと思った。なんといっても邦題がいい。

 

1940年、第二次世界大戦下のロンドン。コピーライターの秘書として働くカトリンの書いたコ

 

ピーが評価され、戦意高揚映画の脚本陣に加わることに。ところが、ベテラン俳優のわがまま

 

や政府と軍部の検閲などのトラブルが発生し、そのたびに脚本を書き直すことに。ユーモアを

 

交えつつ、軽妙洒脱な台詞が飛び交う…あくまでも奥ゆかしく。さすが、イギリス映画。

 

生と死は隣り合わせだということが痛切に迫ってくる。戦争シーンは描かれていないが、日常

 

に突然降りかかってくる爆撃シーンには強烈に戦時下であることを意識させられる。抑制の効

 

いた描写の中に、戦争の痛ましさ、人間の脆さと強さが炙り出される。そんな状況の中でのカ

 

トリンのロマンスは、胸ときめくものがあった。

 

「人生の1時間半を捧げたくなるような映画」を作りたい、観たいという映画好きの映画愛にあ

 

ふれた作品だ。                                                 (柊子)

 

                  ※

 

 

悲しみを乗り越えて進もうとするヒロインの姿に、久々に胸が熱くなる想いだった。ヒロイン

 

のカトリンには『アンコール!!』で音楽教師エリザベスを演じたジェマ・アタートン。その

 

他『パレードにようこそ』のビル・ナイ、『おみおくりの作法』エディ・マーサンなど達者な

 

イギリス映画人の出演で、映画愛にあふれた名作が誕生した。デンマーク出身の女性監督の作

 

品。                                    (OK)

 

 

 

 

 希望かなた

 

 

 2017  ドイツ 1時間38分 <予告編> 

 

 監督:アキ・カウリスマキ 

 

 出演: シェルワン・ハジ 

 

 

アキ・カウリスマキ監督が、2011年に制作した『ル・アーヴルの靴みがき』に続く難民三部作

 

の第2作目と位置づけている。

 

「いい人々のいい国」だと聞いていたフィンランドに辿り着いたシリア難民を主人公とし、無

 

情にも難民申請を却下されネオナチからのいわれのない暴力にさらされるように辛く当たる者

 

がいる一方で、社会の片隅でつつましやかに生き小さな善意で優しく迎え入れる者もいる様を

 

描いている。

 

わが国も含めた先進諸国の人々の思いとして、寛容でありたいけれど社会防衛的な葛藤を抱え

 

ている矛盾も描いているのではないだろうか。希望の「かなた」は、必ずしも「いい人々のいい国」で

 

はなかった。この作品の結末では、 難民の人々がどのように落ち着けるかの答えはまだ出ていないよ

 

うに思えた。彼らも命懸けであり、われわれも懸命に、賢明に考えたいものである。

 

ところで、様々な海外旅行先で日本人にとっては奇妙なスシ料理に出会うことがあるけれど

 

も、この映画に出てくるスシ認識にも苦笑を禁じ得ない。

 

                               (竪壕)