「葛城事件」 「マイケル・ムーアの世界侵略のススメ」

 

 

 葛事件

 

 

  2016年 日本映画 2h <予告編> 

 

 

  監督・脚本:赤堀雅秋  (PG12)

 

 

  出演:三浦友和/南果歩/新井浩文/若葉竜也/田中麗奈

 

 

 

本作が映画2作目という赤堀監督の同名舞台の映画化。噂に違わぬ後味の悪さ。登場人物の誰ひとり

 

感情移入できず、一片の救いもないすさまじい映画である。

 

主人公は、私と同年輩の三浦友和演じる、葛城家の当主、葛城清だ。彼のもとに、死刑制度反対を使

 

命と考え、死刑囚の次男と獄中結婚したという星野順子が現れることから物語は始まる。

 

先代が始めた金物屋を引き継いだ清は、懸命に働き専業主婦の妻と二人の息子の四人家族。念願の

 

庭付きのマイホームも手に入れ、幸せな家庭を築いたはずなのに。いつのまにか、妻は、夫を拒み精神

 

を病み、結婚した長男はリストラを誰にも言えず自らを追い込み、次男は引きこもりから、あろうことか無

 

差別殺傷事件を起こし死刑囚に。まさに傾れをうって「一家崩壊」へと落ち込んでいく。

 

それもこれも、もとはと言えば、自己中心で家族を支配、抑圧し続けてきた己自身に思い至ろうというも

 

の。だが本人はといえば何の反省もなく、「俺は被害者なんだよ」と言い放ち、「俺が、一体何をした!」

 

と開き直る始末。

 

この映画の、連続殺傷事件の死刑囚と獄中結婚というと、例の「附属池田小事件」を彷彿とさせる。「私

 

はあなたを愛します」と宣言する獄中押しかけ妻と、罪の意識もなく早く死刑にしろと叫ぶ次男との拘置

 

所での面会シーンの、まったく通うことのない絶望的なやりとり。

 

それにもまして異様なのは、父親・清そのもの。中華料理屋での言い掛かりといい、カラオケスナックで

 

の振る舞いといい。あげくの果てに、例の「嫁」からは「あなた、それでも人間ですか!」と言わしめる、最

 

低のゲス親父っぷりには、もはや言葉もない。

 

このどうしようもない親父が、荒れ果てた自分の家でひとり蕎麦をすするラストまで、全編何とも息苦しさ

 

に溢れているのだが、にもかかわらず片時たりとも目が離せない「事件」となった。

 

(OK)

 

 

 

マイケル・ムーア世界侵略のススメ

 

 

 2015年 アメリカ映画 1h59 <予告編

 

 

 監督・脚本・出演:マイケル・ムーア 

 

 

待ってました。毎度アポなし取材でアメリカの抱える社会問題に鋭く切り込むドキュメンタリーで喝采を

 

浴びた、ご存知マイケルおじさんの新境地であり最新作。これまで、『ボーリング・フォー・コロンバイン』

 

でアメリカにはびこる銃神話を衝き、『華氏911』では同時多発テロ後のブッシュ政権に俄然反旗を翻

 

し、『シッコ』ではアメリカの医療制度問題を皮肉り、さらに『キャピタリズム~マネーは踊る~』で金融恐

 

慌と資本主義の闇を暴いてきた。

 

7年ぶりに帰って来た最新作は何と「世界侵略」というネガティブ・ジョーク。第二次世界大戦後の世界

 

で、思いつくだけでも、ベトナム、アフガニスタン、イラクはじめ各地で戦争を起こし介入してきた、かの巨

 

大帝国。その結果ますます混迷を深める祖国を救えと一人の男が立ちあがった。しかも合州国、国防

 

省になり代わって星条旗を片手に「世界侵略」の旅に出たのだ。

 

向かう先はヨーロッパから北アフリカまで。まずイタリアの有給休暇など労働事情、フランスの豊かな学

 

校給食、宿題のないフィンランドの教育、スベロニアの授業料無料の大学、ドイツの週36時間労働およ

 

び過去の過ちと向き合う教育、ポルトガルの麻薬合法化と犯罪、ノルウェイの社会復帰のための刑務所

 

事情、チュニジアの女性進出、世界初の民選女性大統領を生んだアイスランドに及ぶ。

 

このうち、ヨーロッパの労働事情は周知のとおりだし、フィンランドの教育とノルウェイの刑務所は、テレ

 

ビのドキュメンタリー番組で観たことがあり、特に目新しいものでもない。しかも、それぞれのお国の事業

 

も違い、そのまま真似するわけにもいかないだろう。その辺は監督も充分承知していて、これらの国が

 

取り入れた政策も、元になったのは実はアメリカから学んだものも多いということに気づくのである。 

 

たとえば、メーデーは、1886年5月1日、シカゴなどアメリカ全土で八時間労働制を求めてたたかった

 

大規模なストライキをその起源としているし、自発性を重視した教育思想はアメリカの教育学者ジョン・

 

デューイが唱えているなどである。結局、自分たちの歴史を見直していくことでしか、より良い解決策は

 

みつからないのかも知れない。翻って、わが日本はどうだろう。と考えされられもした映画でした。

 

(OK)